COHERENT(旧ONDAX)社製狭帯域波長安定化レーザーに関する最新技術情報|株式会社 ティー・イー・エム

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技術情報

2021.02.22

半導体光源

COHERENT(旧ONDAX)社製狭帯域波長安定化レーザーに関する最新技術情報

はじめに

 今日レーザー光は身の回りで、生活用品や計測機器はもとより、車両の自動運転に至るまで、多種多様な用途で使用されている。その中でも非常に狭い発振線幅(狭帯域)で、かつ発振波長の安定性を必要とする応用用途は、一般的な熱加工用途を除く、CD/DVD書込み、光通信、分光分析、3次元計測及び医療用途等の幅広い分野で使用されており、この様な分野・応用用途で求められる狭帯域波長安定化レーザー光源に欠かせない狭帯域波長安定化光学素子に関して(米)COHERENT(旧ONDAX)社の体積型ホログラフィック回折格子・VHG (Volume Holographic Grating)を例にその詳細を紹介する。

狭帯域波長安定化素子     

各種光学部品

 広く知られているように、レーザー発振器における発振線幅の狭帯域化と発振波長の安定化を図る技術はレーザーの進歩と共に進化し同様に長い歴史が在る。イオン・レーザーの代表格であるAr⁺レーザーやKr⁺レーザーは紫外から近赤外域に数多くの発振線を有しており、プリズムを波長選択素子として用いる事で10GHz程度の発振波長選択を行い、更にエタロンを用いて100MHz程度までに狭帯域化している。また、連続的に波長が可変出来るレーザー(色素、Ti:Sapphire、OPO (Optical Parametric Oscillator)、OPG (Optical Parametric Generator)、半導体レーザー等)には発振波長選択と安定化の為に反射型回折格子が多く用いられている。また、光通信分野で発達した方式ではFBG(Fiber Bragg Grating)が在り、特定の波長のみ光ファイバー内で反射させ、その他の波長は透過できる事を利用し単一波長選択を行う方式もファイバーカップル半導体レーザーで盛んに利用されている。

VHG filter

 COHERENT社製VHG filterは製品名こそfilterであるが、先に紹介したFBG(Fiber Bragg Grating)同様回折格子である。その振舞いはFBGと非常に良く似ており特定の波長のみ回折し他の波長は透過する。その原理は、母材中に屈折率変調(回折格子)を形成させ、周期的な屈折率変調に合致した波長 (λB=2neffΛ)の波長のみ回折させている。また、VHGの特長は通常の回折格子とは異なり、特定波長が回折格子から回折された際に発生する高次回折光(2nd,3rd,4th・・・)が発生しない事である。この事により非常に良好な回折効率が得られている。
図1にVHGのイメージを示す。


図-1COHERENT社製VHGイメージ

半導体レーザーへの応用

 VHG(別称VBG)を図-2の様に半導体レーザーの狭帯域波長安定化素子として使用すると、不要なスペクトルの発振を一桁低減する事を可能にし、グラフ-1で示すような狭帯域にて波長安定化されたスペクトルを得ている。またグラフ-2で示す広い温度域で発振波長の安定化が同時に行える。
 COHERENT社はこの方式をPowerLockerと呼び、数多くの同社製品に採用して高い評価を得ている。実装されたVHGは薄膜や非晶質(ゲル)とは異なり、長期的に安定であり、波長精度、狭帯域性及び回折効率の良さから十分な信頼性と機能を確保している。


図-2COHERENT社製PowerLocker


グラフ-1 発振スペクトラム


グラフ-2 波長安定性

VHG製造工程

 COHERENT社では優れた品質のVHG製造の為に、一貫した品質管理を行っており、母材製造から最終完成製品まで100%自社内で全ての工程を行っている。製造工程は、母材製造→ウエハー切出し→研磨→回折格子書込み→光学評価→反射防止コーティング→規格サイズ切出しが全行程となる。回折格子の書込み前に、ウエハーの面精度、平坦度及び厚さ等厳しくチェックされ、その後回折格子書込みは紫外光で行われる。ここで特筆すべき点は、妥協を許さない光学評価機器で、回折格子書込み後のウエハー全てのパラメータ管理の為COHERENT社では、全自動評価装置を自社で組上げており、その特許数は、評価装置関連で15件、製品関連で21件にのぼる。例えば、高分解能データアレイ評価器では、一台で回折効率、中心波長、半値幅、傾斜角、表面反射率及び透過率の6項目の測定を位置分解能140μm/pitchで行っている。この様な工程を経て完成した製品は、光学部品として部品販売されたり、狭帯域波長安定化素子として半導体レーザーに組込まれる。同社の2017年現在の生産能力は公称25万枚/年である。

VHG搭載COHERENT社製半導体レーザー

 COHERENT社製半導体レーザーは、全てVHGを使用したPowerLocker搭載レーザーである。レーザーラインナップは大きく分けて、単一周波数 (Single Frequency / 線幅50~300MHz) と狭帯域 (Narrow Band Multi Transverse / 線幅150~300MHz) が在り、波長レンジは405nm~1064nmと広範囲をカバーしている。外形は様々な用途に対応する為にTO CAN型を始めベンチトップ型まで多種取り揃えている。
 また、最もポピュラーなモデルのLMシリーズの特長は、小型ながら安定して単一周波数発振を実現しており、正確な温度コントロールと電流制御によりコールドスタート時から僅か60秒程でコヒーレント長1m以上の位相の揃った指向性の良いレーザービームが利用でき、その出力安定性も1%以下と極めて安定である。外部制御機能等、機器組込みにも対応しており、その汎用性は高く幅広い応用用途に対応可能であり、単一周波数He-Neレーザーの代替光源として置換えが進んでいる。表-1に製品群一覧表を示す。
 更に近年ではRaman分光が物性評価以外でも化学及び薬学分野で注視されている。従来のRaman分光用光源にはCOHERENT社製狭帯域レーザーで十分な結果が得られているが、レーリー光に近接した低波数域のRaman測定 (THz・Raman)計測用にCOHERENT社では、VHG技術を駆使した製品を開発している。この半導体レーザーは、ASEノイズレベルを60dBまで抑えており、これによりレーリー光近傍域での低波数Raman測定が可能となった。従来のRaman波数域では判別が困難であったサンプルも、THz・Raman領域では容易に判別可能になったと報告を受けており、Raman分光分析の応用用途を広げる事に一翼を担う事を期待している。COHERENT社Model : Cleanlineの製品外観を図-3及びスペクトルをグラフ-3に示す。


表-1COHERENT社製品ラインナップ

図-3装置外観


グラフ-3 発振スペクトラム

半導体レーザー製品紹介

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参考文献

COHERENT社(旧ONDAX社)技術資料

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