ガルバノスキャナの特長と役割

TECHNICAL INFORMATION

技術情報

2023.05.08

レーザースキャニング

ガルバノスキャナの特長と役割 ~最先端産業・研究を支える縁の下の力持ち~

はじめに

ガルバノスキャナは、ガルバノモーター先端のレーザー光反射鏡(ガルバノミラー)を2軸(X/Y)、場合によってはレンズを3軸目(Z)で制御することによってレーザー光をピンポイントで照射するための制御装置である。

レーザー加工やマーキングなど現代の精密加工技術を支える心臓部であるとともに、共焦点顕微鏡など最先端の科学研究用機器にとってもなくてはならない機構である。

近年では、リモート溶接や3Dプリンタなどの最先端レーザー制御技術でも広く活躍しており、まさに社会の今と未来を支える基幹テクノロジーといえるものとなっている。

ガルバノスキャナの歴史

「ガルバノ」というのは聞き慣れない言葉かもしれないが、ガルバノスキャナの最も基本の動作原理である高感度で電流の検出計測可能な「ガルバノメーター(検流計)」に因んだもので、18世紀の医師・物理学者 ルイージ・ガルヴァーニの功績に由来してこのように呼ばれている。

ガルバノメーターの原理を応用し、電流によってミラーの反射角度を制御する機構であるため「ガルバノスキャナ」と呼ばれているのである。

ガルバノスキャナの原理

図1 ガルバノスキャナ概要

ガルバノスキャナの基本的な仕組みはとてもシンプルである。

本文の初めでも紹介した通り、X/Y軸それぞれのレーザー光反射鏡「ガルバノミラー」をモーターで適切な角度に回転させることでレーザー光を狙った位置に照射する。モーターの回転角度制御の精度が高いほどより精密な位置制御が可能となるため、その精密制御にガルバノメーターの原理が応用されている。

つまり、ガルバノミラー + 軸回転用モーター(ガルバノモーターとも呼ばれる) + 回転角制御機構(ガルバノメーターの原理を応用した制御用ドライバ)という3ユニットの集合体こそが「ガルバノスキャナ」というわけである。

このようにその仕組みはとてもシンプルなガルバノスキャナだが、実際に産業・研究分野で応用する場合には、それぞれのユニットに極めて高い精度が求められる。そのため、実際に利用分野の求める性能を満たすガルバノスキャナの開発・製造には最新の設計・加工・検査能力が求められるのである。

ガルバノスキャナの用途

ガルバノスキャナはレーザー光を極めて高精度で制御することができるため、様々な先端産業・技術を影で支える「縁の下の力持ち」として幅広く利用されている。以降では、どのような作業や機能で利用されているかを見ていきたい。

<産業用途>

・レーザーマーキング
図2 産業用途イメージ

レーザーマーキングは、対象物にレーザー光を照射して表面を溶かす、焦がす、剥離する、酸化させる、削る、変色させることでロゴや商品名、シリアル番号や型番などを印字する方法である。レーザーマーキングは「マスク式」と「スキャン式」の2種類に大別できるが、ガルバノスキャナはスキャン式の心臓部としてなくてはならない存在である。スキャン式レーザーマーキングは、1点のレーザー光を照射して、一筆書きのように印字していく方式で、具体的には発振器から照射されたレーザー光をスキャニングミラーで走査して対象物に印字する。従来のX/Y2軸制御をはじめ、現在ではZ軸も制御することで様々な立体形状物にマーキングできる3Dレーザーマーカも登場しており、この一連の動作がガルバノスキャナによって制御されている。ガルバノスキャナの最大の特長である極めて精密かつ高精度な制御能力によって、複雑な形状物でも極めて正確なマーキングが実現されているのである。

・レーザートリマ

厚膜チップ抵抗器などではスクリーン印刷で各層を形成している。アルミナ基板上に数百以上の抵抗体形成を一度に行うため、わずかながら印刷状態にばらつきが存在する。つまり抵抗値にばらつきが生じるということになる。 抵抗値ばらつきがあるままチップにしても狙いの抵抗値は一部しか得られないため、抵抗値を調整するためにレーザートリミングが行われる。レーザートリミングは抵抗体を一素子ずつ測定しながらレーザーでカットしていき、狙いの抵抗値にするとともに、ばらつきを小さくする工程である。あらかじめ目標抵抗値より低め狙いで抵抗体を印刷する。その後、抵抗体にトリミングを入れることで電流経路が狭くなり、抵抗値が上がる。狙いの抵抗値になったところでトリミングを止めることでチップ間のばらつきを小さくする。 この処理では極めて精密なカッティング制御が求められるが、そこで活躍するのがガルバノスキャナである。

<バイオメディカル用途>

・光干渉断層計 (OCT)
図3 バイオメディカル用途イメージ

光干渉断層画像診断 (Optical Coherence Tomography / OCT) は、ナノ単位の近赤外線レーザーを利用した非侵襲性の断層画像診断法である。非接触・非侵襲で撮像できるため診断対象を安全に診断することができる。また、リアルタイムで画像を取得できることから極めて短時間で診断できる。身近な応用例として眼科での網膜検査がある。緑内障などの検査では広く光干渉断層撮影装置が利用されている。OCTでは微細な組織内部構造の視覚化が要求されるので、ナノ単位でも制御可能なガルバノスキャナが広く応用されている。

・レーザー顕微鏡

非接触で簡単に表面形状を3次元計測できる顕微鏡装置が共焦点顕微鏡である。中でも高分解能での検出が可能なレーザー顕微鏡は高精度の3Dイメージングや細胞内小器官の活動を精密にイメージングできる装置として、最先端のバイオメディカル領域ではなくてはならない存在となっている。また近年ではバイオメディカルのみならず他産業分野でも広く活用されるようになった。例えば電子部品産業では、電子機器類などの著しい小型化・高集積化に伴って部品や素材の微小3次元計測に対するニーズが高まっている。そこで高精度・高分解能かつ非接触で表面形状を3次元計測できるレーザー顕微鏡が注目され広く普及している。レーザー顕微鏡では、より大きな振り幅で高速に走査するためのレーザー光制御が不可欠で、そこで欠かせないのがガルバノスキャナである。ガルバノスキャナを応用することで、極めて微細な単位のレーザー光を正確かつ高速に制御することが可能になるのである。

<検査/計測用途>

・3D形状計測
図4 検査/計測用途イメージ

3D CADが話題となり、今ではほんの数年前には考えられなかったような産業製品も3D CADによって製造できるようになっている。このような光学式非接触三次元計測・製造技術へのニーズが急速に高まっており、それにともなって三次元形状処理技術に求められる精度・スピードも数年前とは比較にならないほど高いレベルになっている。このニーズに応えるための新たな技術として注目されているのが次世代の3D形状計測機器である。特にガルバノスキャナの特性を応用した機器は、より広い三次元の走査範囲を高速かつ精密に計測できることから様々な産業分野の検査/計測で活躍している。

・LiDAR

LiDARはLight Detection and Rangingの略で、レーザー光を走査しながら対象物に照射し、その散乱光や反射光を観測することで対象物までの距離を計測したり対象物の性質を特定したりする光センサー技術である。従来はLiDARを人口衛星や航空機に搭載して地形や建造物、森林構造などを測定する測量技術として活用されてきたが、最近では小型軽量タイプのLiDARをドローンに搭載して測量を行ったり自動車の自動運転システムに搭載したりするなど、人間の眼の代わりを担う技術として大変期待されている。このレーザー光の走査にガルバノスキャナが使用されているおかげで、LiDARの視野を広げることができ、対象物の形状や距離を正確に把握することができるのである。

ガルバノスキャナユニットの実例

当社が取り扱うケンブリッジテクノロジー社は、長年の経験に基づいてガルバノスキャナのレーザービームステアリングソリューションに取り組んでいるワールドワイドトップベンダーである。産業分野における様々なアプリケーション向け製品はもとよりバイオメディカル・研究分野のニーズにも対応した各種製品を世界規模で提供している。また、同社のガルバノスキャナは豊富なラインナップが特長であり、当社が常時提供可能な標準ガルバノスキャナユニットも、以下に示すように豊富なラインナップを揃えている。

表1 ケンブリッジテクノロジー社製ガルバノスキャナモデルと当社標準ガルバノスキャナユニットのラインナップ

※色の濃い部分は当社標準ガルバノスキャナユニットの既存ラインナップ
 色の薄い部分は近日中に拡充予定のラインナップ
 斜線部分は各ガルバノスキャナモデルのおおよその対応入射ビーム径(当社にてミラー等デザイン可)
※丸囲み数字は図5のイメージ図と適合

図5 当社標準ガルバノスキャナユニットの一例

おわりに

図6 当社技術センターのサービス一例

ここまで見てきたように、ガルバノスキャナに対する市場ニーズは多種多様である。一口に「ガルバノスキャナ」といっても、組み込む装置の種類や目的、構造、規模などによってその応用方法・構造・パーツは様々に異なる。このような多様なニーズに正確かつスピーディーに対応することがガルバノスキャナのサプライヤーである当社に求められる最大の責務であると考えており、長年に渡って最新レーザー関連製品を日本国内の光学機器業界のお客様にタイムリーかつ高クオリティで提供してきた実績と経験、そしてそこから学んだ見地にもとづいて、以下に示すように、強力なサポート体制と高い技術力でお客様のニーズに応えている。

 

一般的な商社にはない充実した開発・サポート体制

  • 商社としては珍しい独立した専門技術センターを擁し、高い技術力を備えたエンジニアリングスタッフがお客様の製品導入時に必要となる各種開発サービスを提供
  • 安心して製品をご利用いただくためのアフターサポートを提供
  • 豊富な経験と蓄積された知識で、お客様の研究開発をアシスト
  • ガルバノスキャナユニットのOEM安定供給を実現すべく日本国内の品質、サービス体制を構築

お客様の多種多様な要望に応えるソリューション

  • 当社独自のシミュレーション技術により、ガルバノミラー及び周辺機器の設計を迅速にサポート
  • 生産部門と密接に連携した物流体制を構築し、海外製品の受入れ検査から最終出荷まで一貫して管理
  • 専門知識・技術を有するスタッフが様々な最新技術・製品を常時リサーチし、市場ニーズに沿った体制を維持
  • 長納期となりがちな海外レーザー関連製品において、お客様の必要数量情報を基に最適数をストックし、お客様のご要求に応じたタイミングでの納品を実現

 

ガルバノスキャナ選びでお困りのお客様は、ぜひ一度当社へお問い合わせいただきたい。

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