Ti:Sapphire結晶に替わるCr: ZnS/Seを用いたEr fiber laser励起中赤外領域フェムト秒レーザーに関する最新情報|株式会社 ティー・イー・エム

TECHNICAL INFORMATION

技術情報

2021.04.13

レーザー・光源

Ti:Sapphire結晶に替わるCr: ZnS/Seを用いたEr fiber laser励起中赤外領域フェムト秒レーザーに関する最新情報

1.ウルトラ・ファースト・パルス

1.1 モードロック

 モードロックまたはモード同期等の呼び方で、頻繁に耳にする共振器内での縦モード(発振モード)間隔の位相関係が同一で、かつ安定な状態である時にモードロックまたはモード同期状態と呼んでいる。この事は共振器内に縦モード間隔の異なる多数の発振が存在した時に、その位相が全て揃っており、かつ各縦モード位相の揃った部分のみ共振器内をラウンド・トリップし、共振器からパルス出力される状態をさし、時間的に短いパルス光を得る基本的な技術である。

1. 2 媒体の移り変わり

 広く知られているように、レーザー発振器におけるモードロックの技術は歴史が有る。筆者も学生の頃、2m程の共振器長を有するAr⁺レーザーやNd:YLFレーザーに幸運にも触れさせて頂ける機会を頂きサブ・ピコ秒程度だが、実際にAOモジュレータを共振器内に挿入し時間的短パルス発振を肌で学習させて頂いた。記憶が正しければ、この頃からパルス幅の短縮化は徐々にCW光を励起源に用いた色素レーザーへと移り替わり、過飽和色素等を色素に添加する事で大幅にパルス幅を短くすると共に、波長可変性でダイナミクス現象の検証目的で多くの応用用途に使用され始めた頃であった。しかしながら当時は励起レーザーの発振に大電力を投入し、その変換効率の悪さから大半は熱となり、除熱の為に大量の冷却水で冷やす事がユーザー側の問題で在った。また、当時は装置購入価格と合わせて、光源サイズ及びユーティリティーがハードルとなり、現在と比較すれば専門的な研究者の方々が主なユーザーであった。
 この後、受動モード同期の括りに属するKLM(Kerr Lens Mode-Lock)技術が、極短パルス生成に有力で有る事が広く認知され、Ti:Sapphire結晶をモードロック媒体としてペアで使用する事で、従来に比べ安定かつ小型で使用されるまでに至っている。また、励起光源も同じく従来のバルク光学部品を共振器構成に用いたイオンレーザーから半導体励起固体レーザーに置き換わりシステムの小型化及びユーティリティーの軽減に一翼を担っている。

1. 3 波長変換

 時間的な極短パルス光が容易に得られる様になると、今まで波長に合わせて研究対象試料を選択していた事が180度変わってくる。非常に都合の良い事にTi:Sapphire結晶は概ね700nmから1µm程度の発振が可能な発振媒体である。このTi:Sapphire結晶を用いてピコ秒もしくはフェムト秒パルスを生成すると、2m程度の共振器長で大よそ76MHz程度の発振繰り返し周波数でパルス当たり数nJ程度のエネルギーが容易に得られる。これをピークパワーに換算すると数100kWレベルに達する。よって、そのピークパワーとバンド幅(波長幅)の広さから非線形結晶を用いる事で容易に高調波、和周波及び差周波混合法を利用でき、幅広い波長領域を容易に連続可変にて得られる様になった。その後波長可変技術は更に進みOPO(Optical Parametric Oscillator)及びOPG(Optical Parametric Generator)の開発により実に赤外領域では20µm程度まで波長変換域を広げている。

2.中赤外領域KLM多結晶発振器

2.1 多結晶 Cr: ZnS/Se

 KLM方式及びTi:Sapphire結晶の恩恵で、幅広い応用範囲で貢献している極短パルスレーザーではあるが、十分満ち足りているとは言い難い。広域な要求波長域を補うべく非線形結晶で波長変換を行えば、パルスエネルギーの消失は逃れられなく、それを補うキャビティーダンパーや再生増幅器等を付加すれば装置が複雑になり、システムの不安定化を招く恐れもあると思われる。
 そこで近年中赤外領域では、クロム(Cr)ドープ硫酸亜鉛(ZnS)とセレン化亜鉛(ZnSe)がフェムト秒オーダーの短パルスを生成する媒体として注目されている。その期待できる波長可変領域は1.8µmから3.4µm程度である。また、Cr:ZnS/ZnSeレーザーは比較的入手し易いエルビウム(Er)やツリウム(Tm)を添加した高信頼性ファイバーレーザーで励起出来る為にシステムとしても非常に安定な事も有り、中赤外域のTi:Sappireレーザーと呼ばれる事も少なくない。 従って大気中に含まれる水の吸収等環境影響を受けやすい中赤外域で手軽に発振器よりダイレクトにWレベルの出力が安定かつ手軽に得られる事は理科学応用以外にも産業界での加工応用等の期待が高まっている。 図1に2015年にIPG社Dr. Sergey Vasilyev, Dr. Igor Moskalev, Dr. MikeMirov, Dr. SergeyMirov及びDr. Valentin Gapontsevらが2015年11月にOptics Lettersに発表した代表的な共振器レイアウトを示す。この共振器は2枚の曲線率を有した凹面鏡を使用した、折込X型定在波共振器とも呼ぶべくレイアウトで、直線偏光1567nmCW発振するIPG社製EDFL(Er-Doped Fiber Laser)を励起光源に用いており、共振器外に設置したレンズにより励起光は3mmΦに絞られ共振器に導かれる。ここで励起光源のファイバーレーザーに関して触れさせて頂きたい。 ファイバーレーザーは、希土類を添加した光ファイバーを励起用半導体レーザーで励起し、バルク光学部品で構成された共振器と同様に光増幅器として用いる。このファイバーをリング状にまとめ共振器を構成している。ファイバーで共振器を構成する事で、共振器内の光がファイバー内をラウンド・トリップし空間伝搬を一切行わない事で、物理的及び性能的に安定でかつ、メンテナンスフリーなレーザーが実現出来る。特にEDFL(Er-Doped Fiber Laser)は光通信に最も多く用いられ、成熟を重ねる事で量子効率が高く、高出力が得られる。 同研究グループからの情報によれば、図1に示した構成で既に100時間以上安定モード同期動作を続けた実績が有りとの事で、物理的にも安定なレーザーシステムと言えよう。

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図1.
a) 100MHz KLM Cr2+:ZnS Laser
b) 300MHz KLM Cr2+:ZnS Laser
c) 出力鏡の分散調整セットアップ

2.2 波長拡張性

 既にKLM方式Mode lock Ti:Sapphireで述べている事だが、自由に発振波長選択を行いたいと言う要求はCr:ZnS/ZnSeを用いたフェムト秒レーザーでも同様である。 第2、第3及び第4高調波発生は容易に可能であり、和・差周波混合の報告も期待される。
 表1.にIPG社Dr. Sergey Vasilyev, Dr. Igor Moskalev, Dr. MikeMirov, Dr. SergeyMirov及びDr. Valentin Gapontsevらが2015年にOptical Society of Americaに発表した波長チューニングカーブを示す。

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表1.中赤外基本波、SHG、SFG、THG、FHGパワーカーブ (29fs Cr: ZnS oscillator)

3.今後の展望及び製品

3.1 今後の展望

 極短パルス技術進化を時系列で追い解説してきたが、IPG社では「単純構造かつ堅牢」な増幅器の開発を視野に入れている。コンセプトはCW励起シングルパス構造で、最大発振繰返し周波数でMulti-Watt出力、パルス幅は30fs/バンド幅600nmを目論んでいる。また、波長可変技術に関してはチューナブルに3-10µmを目指すと表明している。

3.2 IPG社製Cr:ZnSe/S製品

チューナブルフェムト秒中赤外レーザー CLPF & CLPFTシリーズ
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・波長レンジ 2.1 – 2.6um
・パルス幅 25 – 150fs
・最大平均出力 6.8W
・繰返周波数 0.08 – 1GHz
・波長チューニング対応 
・ビーム品質 M2 < 1.2
・SHGオプション(最大出力0.52W)

チューナブルCW中赤外レーザー(狭線幅) CL & CLTシリーズ
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・波長レンジ 1.9 – 3.0um
・スペクトル線幅 < 0.5nm
・最大出力 130W
・波長チューニング対応
・ビーム品質 M2 < 1.2

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参考文献

IPG社技術資料
Mid-IR Gain Media Based on Transition Metal Doped II-VI Chalcogenides
Dr. Sergey Vasilyev, Dr. Igor Moskalev, Dr. MikeMirov, Dr. SergeyMirov, and Dr. Valentin Gapontsev Optics Letters 40, 5054 (2015)

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