自動車、医療機器及び産業界で導入が進むポリマー接合技術最新動向 (IPG Photonics社)|株式会社 ティー・イー・エム

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技術情報

2022.03.04

レーザー・光源

テーマ

自動車、医療機器及び産業界で導入が進むポリマー接合技術最新動向 (IPG Photonics社)

1.レーザー加工の進化

Product Range of Mid-IR Hybrid Lasers
Product Range of Mid-IR Hybrid Lasers
(IPGフォトニクス社ホームページより画像提供)

 産業界にレーザー装置が加工機光源として導入され始めたのは、おおよそ1980年頃であった。加工機光源として用いられるレーザー光には数多くの利点がある。誘導放出による光の増幅により発振されるレーザー光は、単色性に優れ、指向性が良く、集光性及び干渉性が良い事が広く知られている。この事はレンズもしくは凹面鏡で絞りこむ事で、容易に高パワー密度の熱源となり、マーキング程度であれば簡易な光学系で必要十分である。また、今日盛んに応用が進められているアブレーションによる穴あけや光学的な化学反応処理(改質)もレーザーによるイオン化や解離により行われている。アブレーションをもとに実用例をあげれば、金属やセラミックス等の材料を加熱する事で、溶接、ロウ付け、切断、焼き入れ、肉盛り等が有る。

Ultrafast Picosecond and Femtosecond Fiber Lasers
Ultrafast Picosecond and Femtosecond Fiber Lasers
(IPGフォトニクス社ホームページより画像提供)

 この様な進化の背景には、日々進んでいく高出力化が大きな役割を担っており、レーザー出力の高出力化無しには今日のレーザー加工は語れない。1980年以前では数100W程度の炭酸ガスレーザーが主流であり、1990年代中頃までの暫くの間はガス封じ切り型及び直行型の炭酸ガスレーザーとノーマルパルス、Qスイッチもしくは連続(CW)発振のYAGレーザーが加工用レーザー光源の大半を占めていた。エキシマレーザーは主に半導体のリソグラフィーで国内外を問わず盛んに使用されていた時である。産業分野でのレーザー加工機への期待が高まる中、1994年12月にIPG Photonics社よりサイドパラレル励起光導入方式(米国特許番号 US5999673A)が発表され、それまで数Wレベルのファイバーレーザー出力を今日ではシングルモードにて数kWレベルまで引き上げるに至った。 また、ファイバーレーザーの進化は、励起用ファイバーカップル半導体レーザーの高性能化(波長安定化及びコヒレントコンバインによる高出力化)による所が大きい。 IPG Photonics社では主要部品である半導体レーザーのみならずファイバー等に至るまで一貫した自社生産を行う事で製品品質管理向上を常に行っている事を追記したい。

Nanosecond Pulsed Fiber Lasers
Nanosecond Pulsed Fiber Lasers
(IPGフォトニクス社ホームページより画像提供)

 更に今日ではファイバーに添加する元素も増え、発振波長の選択肢が広がり、単一縦モード発振まで可能となった。 多彩なレーザー製品選択肢は非線形結晶を利用する事で、IPG社製ファイバーレーザー製品群で言えば、UV~5μmまでの発振波長域を網羅し、パルス発振においてはf秒~n秒のパルス幅製品が提供されている。

 
 
 
 

2.高分子有機化合物(ポリマー)接合

今日の産業界で日々加工要求の高まる高分子有機化合物(ポリマー)の接合はレーザー光を使用する適切な応用用途として新しい技術である。 この技術は、アークの無い製造の柔軟性と精密な非接触プロセスが要求される場合、いくつかの例で超音波接合技術に匹敵する事が出来る。 この様な加工要求の場合、レーザーを用いて行う加工は様々な熱溶接可能なポリマー材料を高い接合度で溶接でき、かつ信頼性も高い。また、接合部位を容易に制御出来る事からもレーザーがもたらす熱的侵襲を最小に抑える事も可能で、歩留まりの減少にも貢献すると思われる。これらを踏まえて、レーザー光を使用する接合は対費用効果も高い解決策と思われている。

3.Thulium Fiber Laser

ポリマーチューブ・レーザー照射接合部
ポリマーチューブ・レーザー照射接合部
(IPGフォトニクス社ホームページより画像提供)

1.90μから2.05μ帯を発振できるThulium Fiber Laser はポリマーの接合に適したレーザー光源といえる。Thulium Fiber Laser の発振波長は1.90μmから2.05μm帯であり、この波長域はポリマー接合の吸収層が不要である。透明なポリマー材料を重ね合わせレーザー光で照射すれば、照射部分のみを選択的に接合する事が出来る。この事は作業工程の簡略化に貢献し、時間短縮にも大いに期待できる。また、Thulium Fiber Laserから発振される中赤外域レーザー光はポリマー材料を透過し、効率的に吸収される長波長レーザービームであり、微細な深さ方向の溶融制御を可能にする。近年Through Laser Welding (TLW)もしくはMid-Infrared Laser (MIRL)と呼ばれるこの技術は高精度の非接触プロセスであり、様々な用途で使用される透明ポリマーを接合できる。有色ポリマー材料及び接合の為に使用される添加剤が好ましくないカテーテル等に代表される医療器具で幅広く使用されており、日々その適性が広く認知され始めている。

有色ポリマーチューブ・レーザー照射接合部
有色ポリマーチューブ・レーザー照射接合部
(IPGフォトニクス社ホームページより画像提供)

上記プロセスは、今日消費者業界向けの様々な二重層液体容器でも受け入られるようになった。最新の処理技術開発により、1.90μmから2.05μm帯のレーザー光は1μm近傍のレーザー光より処理時間が短いことや、接合可能な有色ポリマーの色範囲がはるかに広い事等多くの利点が確認されている。更に加えれば、クランプ圧が低い事で、多くの場合透明クランププレートは不要である。

 

4.従来のレーザーによるポリマー接合

従来から広く知られるポリマー接合技術は、透過レーザー溶接(TTLW)である。 TTLWでは1μm帯の近赤外レーザー光を用いて二つの熱可塑性プラスチックを接合する。冒頭で既に述べたが、接合対象である二つの熱可塑性プラスチックは、一方がレーザービームを透過し、もう一方で照射されるレーザービームを吸収する必要がある。この為接合には吸収層が必要であり、照射光を吸収する吸収材、または高額なインクもしくは顔料を使用する必要がある。IPG Photonics社では永年に渡りTTLW用途光源としてファイバーカップル半導体レーザー(出力10~200W / Model : PLDシリーズ)及びYtterbium CWファイバーレーザー(出力1~500W / Model : YLシリーズ)を完全空冷方式にて供給をしている。これまで述べた上記接合技術は、双方ともに幅広く熱可塑性プラスチック材料に使用出来るが、化学的融和性と同様に溶解範囲を対象材料の熱接合条件に依存している。どちらの接合技術でも、良好な接合強度を担保しかつ、生産要求に応えるべく接合速度及びタクトを達成するには概ね100~200W程度の平均出力が必要と思われる。IPG Photonics社は200W出力のThulium CWファイバーレーザー(出力1~200W / Model : TLシリーズ)を供給しているリーディングカンパニーである。

Mid Power Thulium CW Fiber Lasers

Mid Power Thulium CW Fiber Lasers
(IPGフォトニクス社ホームページより画像提供)

5.終わりに

 近年、レーザー光を使用した微細加工を始めデブリ及びディスミアの無い加工技術開発が進む中、異材接合応用にも注目が集まっており加工用高信頼性光源の開発は大きな役割を担っていると思われる。IPG Photonics社では半導体レーザーを始めファイバーレーザー等のレーザー製品は言うに及ばず常に応用用途の開発にも注力している。これまで述べたレーザーの特長を活かし、更なる応用が期待される分野は、EV化の進む自動車産業、医療器具、高分子有機化合物及び半導体等に限った事ではないと思われる。1960年にT・Hメイマンがルビー結晶を媒体に使用してレーザー発振に成功して以来僅か半世紀、身近な存在になった感のあるレーザーはその可能性に関して様々な分野で留まる事を知らない。SDGs(Sustainable Development Goals)が盛んに叫ばれる昨今、レーザーがSDGsに貢献する応用用途も少なくないと思われ期待を寄せずにはいられない。

参考文献

IPG Photonics社技術資料
IPG Photonics社ホームページ
IPG Photonics社製品カタログ

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