シングルモードダイオードバー向けモノリシックマイクロオプティクスについて|株式会社 ティー・イー・エム
TECHNICAL INFORMATION
技術情報
2019.12.17
論文
シングルモードダイオードバー向けモノリシックマイクロオプティクスについて
マイクロレンズメーカーの独INGENERIC(インジェネリック)社が海外誌に掲載した記事「Monolithic Micro‐Optics for Single Mode Diode Bars」について、弊社で和訳した内容をご紹介します。
執筆者:Stefan Hambücker
超微細構造のコリメーションモジュールがレーザーダイオード製造者に新しいマーケットを開拓
レーザーダイオードは、小型・高い効率・メンテナンス間隔と耐用年数の長さを特徴とします。しかし、その輝度とビーム品質は、材料加工や医療技術などの用途にとってはまだ充分ではありません。複数の発光点を持つシングルモードダイオードバーは高い出力を発生することができますが、未だ広くは使用されていません。
マイクロオプティクスは、放射された光のコリメーションによってレーザーダイオードの輝度を著しく増加させます。これは、レーザーダイオード製造者にコストの面で利益をもたらすのと同時に、新しいアプリケーションを開拓します。
シングルモードレーザーダイオードのバーは、特定の領域内にシングルモードレーザーのエミッターを複数個配列したものです。広域に拡がる単一のエミッターと比較して、バー配列にするメリットは速軸と遅軸の品質が良好になることです。デメリットは発光幅の小ささにより大きな出力が得られないことです。
大きな出力で高い効率を持つ光源を使うためには、多数のエミッターをバー上に配列する必要があります。そのため、エミッター間のピッチは小さくなります(50μm未満)。シングルモードの利点を活かすためには、それぞれのエミッターの光を個別にコリメートしなければならず、結果として全体の構造が小さくなります。
新しいアプリケーション実施の過程には、シングルモードレーザーダイオードの要件に正確に適合した超微細構造を有する小型でモノリシックなマイクロオプティクスが必要になります。これには、要求される精度を確実に、また高い水準の再現性を実現する製造方法を必要とします。シングルモードレーザーダイオードのためのコリメーションモジュールであるC−SMDBの実例は、光源とオプティクスの完璧な調整で最適な結果を達成できることを実証します。
図1 シングルモードダイオードバー用のインジェネリック社からの新しいC−SMDBモノリシックシリンダレンズアレイが、非常に高品質のコリメーションを達成します。
Challenging specifications
エミッターの光を平行化するためには原理的に2つの選択肢があります。平凸非球面のレンズを使用することと、両面双円錐形状のレンズを使用することです。どちらも設計の際に考慮しなくてはならない利点と欠点があります。
レンズ設計は、48μmピッチで速軸と遅軸の開口数NAを0.1と0.6と想定しています。
非球面状のマイクロレンズアレイ光学系の利点は、平凸(pl-cx)形状にできることと適度なアスペクト比 (図2a)を持つことです。これは光学部品の製造に有効な特徴です。しかし、この設計は結果として小さな中心厚CT(~170μm)に対して、小さい有効焦点距離EFL(~190μm)と後側焦点距離BFL(~30μm)をもたらしました。特に短いBFLは、レンズのアライメント時の課題となる可能性があります。ヒートシンク上またははんだによる堆積物上におかれるバーの位置精度は、レンズの中心厚に対する公差と相まって、製造工程にとって重要な影響を及ぼす可能性があります。さらに、レンズは非常に小さく、レンズ自体の取り扱いも困難です。また、EFLが小さいと、非球面形状で大きなNAを持つ曲率半径の小さな光学系となります。以上のことから、この手法で光学系を製造することは困難です。
これに対し、両面双円錐方式(図2b)では、これらの欠点が回避されます。速軸のEFLが~600μm、遅軸のEFLが190μm、BFLが~183μm、CTが~700μmの場合、この設計はより強固です。しかし、完全な形の交差した円筒でさえも収差を引き起こすので、この設計は回折限界ではありません。
図2
a) モノリシック非球面状のマイクロレンズアレイ(pl-cx; a)
b) モノリシック双円錐マイクロレンズアレイ(cx-cx; b)
さらに、2つの面のミスアラインメントの影響を考慮しなければなりません。これは、公差解析から導き出すことができます。図3は、2面のずれ(角度誤差)が速軸と遅軸の発散度に及ぼす効果の解析を示しています。この効果は、速軸についてはより強い、遅軸については小さな影響があることを明らかにしています。また、0.2°より小さいティルト誤差は、発散角の上昇に与える効果が小さいです。標準的に達成可能な公差は0.02°のため、結果として両面双円錐方式の欠点は問題にはなりません。
図3 速軸と0.2°より小さい遅軸の発散度における2つの面(角度誤差)のずれは、発散度の上昇にわずかな影響を及ぼします。標準的な達成可能な公差は0.02°です。
より重要なことは、遅軸をコリメートするレンズアレイのピッチ誤差です(図4)。小さな誤差でさえ、エミッターが複数あるために、発散度に著しい増大をもたらします。したがって、200ではなく5エミッターのみでシミュレーションを実行し、それに応じてピッチを変更してシミュレーションにかかる時間を短縮しました。
図4 遅軸を平行化するレンズアレイのピッチ誤差は、より重要である。小さな誤差でさえ、エミッターが複数あるために、発散度に著しい増大をもたらします。
この効果は、遅軸コリメーションにとって重要です。これらの結果から、ピッチ誤差の規格は、ダイオードバー(~10mm)では1μm未満です。結果として、エミッターピッチに対するエミッターの規格は0.005μm未満です。もちろん、0.150μm未満であるべきレンズ曲率の形状精度または光学の中心厚のような、レンズのための他の重要なパラメータがあります。
その上、ダイオードは結果にも重大な影響を及ぼします。とりわけ、エミッターサイズおよび発散度の増大は、コリメートレンズモジュールの後のより高い発散度およびビームサイズの増大をもたらします。ダイオードパラメータの考えられる変化、様々な設計のトレードオフ、および公差の影響を考慮すると、双円錐手法は、シングルモードダイオードレーザーバーのコリメーションにとって好ましい手法です。
高輝度を得るマイクロレンズアレイ
二次元配列のレンズアレイは、例えばエッチング法または精密ガラス成形を用いて製造することができます。エッチングは、例えば10×10ミリメートルの限られた領域上に非常に多数のレンズを製造しなければならない場合に適しています。精密ガラス成形では、同等の領域内でより少数のレンズしか作れませんが、様々なガラス材料を使用する柔軟性や、マイクロオプティクスに対してより高いNA、より優れたピッチコントロール、より良い球面精度および再現性をもたせることが可能です。この理由から、INGENERIC社は、シングルモードダイオードレーザーや他のマイクロオプティクス用のコリメーション光学系を製造するために精密ガラス成形法を使用します。
ガラス成形において、高屈折率ガラスは成形金型の正確な形状をとります。サブミクロン精度で成形金型を製造することにより、アレイ製造時の精度や再現性が格段に高くなります(図5、図6)。これにより、マイクロ光学素子は、大量の生産においても、マイクロレンズ間にある曲率が有効ではない範囲の最小化や、最大のフィリングファクタ、および最小のピッチ誤差で確実に製造することが可能になります。
図5 アレイが2つの面で動作することを示します。入口側は遅軸をコリメートし、出口側は放出された光の速軸をコリメートします。
図6 新しいアレイは、48µmのピッチを有する200個のレンズからなります。
精密ガラス成形法は、他の成形法と比較して、等温の環境で行われます。正確で歪みのない部品を保証する成型機では、ガラス素材の加熱・冷却が行われます。成形工程の間、2つのツールを高精度に制御し、2つの面の互いに対する相対的なアライメントが正確に維持されることを確実にします。
プロセスの1つの特定の態様を考慮する必要があります。成形は高温処理であるため、部品の過熱および冷却中に収縮や膨張が発生します。その効果は、材料の様々な熱膨張値に依存し、部品の設計に考慮されます。
優れた結果
光学系の品質を評価するために重要なパラメータは、速軸のコリメーションです。コリメーションは、レンズ後の速軸の発散度合を測定するテストダイオードでテストされます。もちろん、結果は使用されるダイオードのパラメータに依存します。このテストでは、46.5°(FW95%)で940nm波長のダイオードと、0.2μmのスマイル(データシートによる)を持つダイオードバーを用いました。これらの値を考慮すると、ダイオードバーのスマイル値を考慮せずに、コリメーション後に2.32mrad(FW95%)の理論値を達成する必要があります。
そのコリメーションは、レンズ曲率の非常に良好な精度を示唆する理論値に近いことは明らかです。また、いくつかのレンズの測定は、レンズの高い再現性を示します。これは使用される製造手法の特徴的な長所です。約0.2μmの測定されたスマイルは、本質的にダイオードバーのスマイルです。
シミュレーションで示されるように、光学系のピッチは、C−SMDBの性能にとって重要なパラメータです。図7は、選択された気温に対するピッチの依存性を示します。ツールの設計を考慮に入れた、特定のプロセス挙動の理解、ツール設計における考慮、および適切なプロセスパラメータの選択は、要求される仕様を達成するために不可欠です。類推によるテストは、そのモジュールのクリティカルな仕様を達成することが可能であることを示します。
図7 ピッチ誤差の処理気温への依存性
最後に、アプリケーションのテストにより、モジュールの全体的なパフォーマンスを評価することができます。このモジュールを使用して、シングルモードダイオードレーザーバーをコリメートしました。コリメーションの後、多くの独立した外部共振器ダイオードレーザーの空間的および指向的な重ね合わせである波長ビーム結合法(Wavelength Beam Combining, WBC)を用いました。角度対波長変換特性は、様々な波長で、一連のレンズを介して、アレイ内の各エミッターにフィードバックを提供する外部回折格子によって達成されます。レーザー共振器は、高反射コーティングされたエミッターの後端面と出力カプラーとの間に形成されます。理論的には、シングルモードのダイオードレーザーバーの場合、すべてのエミッターの重ね合わせは、M²=1で可能です。
この手法により、100W出力の安定したシングルモードダイオードレーザーバーと、速軸および遅軸に対してM²=2を有するテストにおいて達成されました。これは非常に良好な結果です。さらなる評価を続けて参ります。
Summary
C-SMDBコリメーション光学系の例は、ダイオードバーの特性に適合されたモノリシックマイクロオプティクスが、シングルモードハイパワーダイオードレーザーの輝度およびビーム品質を著しく増加させることを示します。インジェネリック社は製造に精密ガラス成型法を採用しており、精度や工程の信頼性に関して厳しい要件を満たしています。
光学的シミュレーションは、2つの90°オフセットシリンダレンズを有するモノリシック両面マイクロオプティクスシステムを用いる手法が、特に2つのレンズエレメントの互いに対する正確な相対アライメントに関して、必要な精度を達成することを実証しました。
波長ビーム結合法(WBC)を用いて、安定化したダイオードレーザーバーは、試験において、速軸および遅軸について100Wの出力およびM²=2を達成しました。
著者
Stefan Hambucker
フラウンホーファーIPTによる博士号取得のための高度な製造技術に焦点を当てて、Aachen大学で機械工学を学びました。 2001年、同氏は、高出力用途向けマイクロオプティクスの開発、製作、販売を任務とするINGENERIC社を設立しました。彼は製品開発、販売、管理を担当するマネジメントパートナーです。
メーカー紹介(INGENERIC GmbH, Aachen, Germany)
INGENERICは、2001年(2001年)にAachenにて創業し、ファイバーカプラー、ホモジナイザー、理・医・計測用コリメーションモジュールなどの光学・レーザーシステムをはじめ、高出力用途向けの高精度マイクロ光学成分を開発・製造しています。
現在、インジェネリックは欧州で数少ないメーカーのひとつであり、世界中のお客様の個々の仕様に合わせて、半導体ダイオードレーザーのビーム整形用ガラスマイクロオプティクスを開発・製造しています。同社は、試作品のレンズ設計、現像から小ロット製造、連続生産に至るまでの製造プロセス全体を取り扱っています。
インジェネリックはまた、高出力レーザーシステムを提供しています。例えば、HiLASEまたはXFELプロジェクトの場合、INGENERICは、250ジュールのエネルギー、2.5kWの平均出力、および7%未満の極端に均質のトップハットビームプロファイル振幅(光のコントラストで、毎秒10パルスを送達する多数の高エネルギーレーザーを供給しました。
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